
9歳6ヶ月齢のフクロモモンガの症例です。
約半年前に初めて脱腸し、その時は押し戻して整復し落ち着いていたそうです。
当院に初診で来院する2週間前からは下痢が続き、頻繁に脱腸をするようになり、
近所の病院で脱腸するたびに週に2〜3回、毎回鎮静麻酔をかけて
押し戻しては総排泄腔を縫合する処置を繰り返していたそうです。
その度に鎮静麻酔からの覚醒に時間がかかるようになり、体力も低下し、体重もかなり低下しているとのことで当院にセカンドオピニオンで来院されました。

当院初診当初は免疫力低下や栄養不良により左目は角膜潰瘍も患っており、両耳の辺縁は壊死して脱落寸前の状態でした。
非常に痩せてしまっていて、体重は65gしかありませんでした。
当時は既に前の病院で脱腸整復+総排泄腔縫合を行ったばかりであり、脱腸は院内では認められませんでした。
画像検査において、一部消化管に腫脹部を認めました。
下痢が繰り返しの脱腸の原因になっている可能性も疑って内科治療を行いましたが、
下痢症状の緩和は見られず、また脱腸してしまったと連絡を受けました。
当院で脱腸状態を確認すると、総排泄腔からの脱出物は盲端になっており、
単純な脱腸ではなく腫瘍などの可能性も考慮し、開腹手術を行うことになりました。

かなりフクロモモンガ自体の一般状態が悪く、年齢も高いためリスクがある手術でしたが、
ご家族の方の希望もあり、慎重に実施しました。
開腹下で消化管(大腸部分)が重積を起こしていることを確認し、消化管を傷つけないように最新の注意を払いつつ、重積を解除・整復していきました。
(写真は矢印の方向に腸が入り込み、重積を起こしているため、反対方向に徐々に引き出し整復を行ないました)

完全に整復した後に確認すると、総排泄腔から脱出していたものは盲腸先端に発生した腫瘤であり、
盲腸が大腸内に入り込む状態で重積を起こし、それが総排泄腔から脱出していたのだと判明しました。
盲腸先端の腫瘤は腫瘍の可能性が高いと判断し、外科マージンを確保した上で盲腸の約3/4を切除しました。

切除後に、小腸から大腸へ問題なく内容物が流れることを確認し、閉腹しました。
病理組織学的検査結果は、盲腸腺癌という悪性腫瘍でした。
術後は支持療法を行い、徐々に食欲や体力は回復し、下痢は治り良い便が出ています。
術後半年以上が経過した現在では、栄養状態も良好になり、体重は110gを超えています。

フクロモモンガの腫瘍は稀とされていて、生前に消化管腫瘍を診断した報告はまだありません。
今後も、月に1回の定期検診で転移や再発の有無をチェックしながら、
慎重に経過を追っていく予定です。
当院ではフクロモモンガの症例数も多く、乳腺癌や盲腸腺癌、リンパ腫や組織球性肉腫、肝細胞癌など他種の腫瘍を経験しております。
フクロモモンガの体調不良でお困りの方、腫瘍治療でお悩みの方には、
当院でできるさまざまな治療法をご提案いたします。
ご希望の方は、ご来院をお待ちしております。