日本猫、4歳2ヶ月、避妊雌の症例です。
3年以上前から鼻が詰まるような呼吸症状があり、この半年の中で、急激に悪化しているという主訴で来院されました。
最近は飲水すると必ず吐いてしまい、食餌も二回に一回は吐いてしまうとのことでした。
呼吸様式は吸気時間延長(息の吸い込みに時間がかかる)、呼気時頬部拡張(息の吐き出し時に頬が膨らむ)がみられました。
X線検査では吸気時の鼻咽頭狭窄、後肺野の腫瘤影、呼気時の咽頭過拡張(鼻から息が抜けていかないため、息の吐き出し時に空気が喉にたまる)がみられました。
病歴、呼吸様式、画像検査から鼻咽頭狭窄と診断しました。
鼻咽頭とは鼻の奥の喉につながる部位で、そこが慢性的に炎症が続いた結果、瘢痕組織という膜が形成されてしまい、狭窄してしまっている状態です。
治療法として、バルーン拡張術という外科治療があります。
カテーテルを狭窄部に通し、カテーテルの一部をバルーン状に膨張させ、狭窄部を拡張させる術式です。
バルーンダイレーター
バルーンカテーテル
麻酔下にて、CT検査、気道内視鏡検査を行い、他疾患を除外し、鼻咽頭狭窄と確定診断を得てから、バルーン拡張術を実施することになりました。
内視鏡で観察したところ、鼻咽頭に狭窄部を確認しました。
狭窄部は1mm程度のピンホールを形成しておりました。
その部位にガイドワイヤーを通し、その後バルーンカテーテルを通し、拡張させました。
ピンホール状に狭窄している鼻咽頭
バルーンカテーテルにより拡張処置中
処置後の拡張した鼻咽頭
術後の覚醒はスムーズで、その後の経過も良好で、
退院前のX線検査では鼻咽頭の拡張が確認でき、呼吸様式も劇的に良化しました。
通常であれば、2から3回、同様の麻酔下バルーン拡張術を実施し、鼻咽頭を完全に拡張させていきますが、この子は経過がよく、1ヶ月後に実施した2回目の拡張術では、ほぼ100%の拡張が得られ、治療を終了しております。
今後は再発に注意しながら、経過観察をしていきます。
鼻咽頭狭窄は、若齢時の猫カゼ(猫伝染性鼻気管炎)や嘔吐した際の吐物や食渣の鼻への逆流による鼻咽頭炎が慢性化した場合に起こることが多く、徐々に症状が悪化していき、末期には強い呼吸困難を呈するようになります。
できるだけ早期の治療介入により、劇的な緩和が計れる可能性がある病気ですので、同様な症状が見られる場合は、当院までご相談ください。