
FIP(猫伝染性腹膜炎)とはウイルスによる致死的感染症です。
FIPの病原体である猫コロナウイルス(FCoV)は猫に置いて一般的なウイルスであり、飼育されている猫の20~40%は病原体を保持していると言われています。ただ猫コロナウイルスを持っている猫すべてがFIPを発症するわけではなく、発症するのは数%と言われています。
症状としては腹部膨満(腹水貯留)、腹部腫瘤、呼吸困難(胸水貯留)、神経症状(痙攣、攻撃性、眼振)など多岐にわたります。診断は血液検査や画像検査に加えて、必要に応じて貯留液を抜去したり、腫瘤に針を刺して細胞を検査する細胞診を行いますが、特徴的な異常所見を示さない場合も多く、複数の検査を組み合わせることによって診断していきます。
今回は4歳日本猫の男の子の症例です。
10日程度嘔吐や下痢が続いており体重も7.5㎏から4.5㎏まで減ってきているとの主訴で来院されました。
血液検査では貧血、低アルブミン、高グロブリン、SAA上昇などが見られ、超音波検査では小腸周囲のリンパ節腫大、回盲腸部腸壁の肥厚(12㎜)が認められました。一般状態も低下していましたので当日鎮静下での針を刺す細胞診検査及び遺伝子検査を行い、FIPと診断いたしました。

FIPの治療薬は複数ありますが、費用や副作用など相談しモルヌピラビルを選択いたしました。投薬プロトコールは基本84日間1日2回になります。数週間ごとに血液や超音波検査で経過を追いながら治療していきました。
治療18日目では盲回腸壁の肥厚は5.3㎜に縮小し、38日目では3㎜、80日目では2mmと着実に縮小し、周囲リンパ節の腫大も消失しました。

その間も大きな副作用等出ることなく過ごせており84日目には治療終了とし、現在までも再発なく過ごせております。
FIPは有効なワクチンは実用化されてなく予防が困難な感染症の一つであり、適切かつ標準治療を行うことが重要です。以前は不治の病とされていましたが、近年の医療の発展により治療が可能になっている病気なので気になることがあればご気軽にご相談ください。