症例はウサギ4歳5ヶ月齢の男の子です。ケージに足を引っ掛けてから右前足をつけないとのことで、かかりつけ医にて骨折と診断され当院を紹介受診されました。

当院受診時は右前肢を挙上し、少し元気はないものの一般状態の悪化はありませんでした。X線検査を実施したところ、右前肢橈骨尺骨の粉砕骨折が認められ、橈骨では肘関節近傍まで亀裂は及んでいました。

幸いなことに開放骨折(骨が皮膚から飛び出ている状態)ではありませんでしたが、今後開放状態になる可能性があったため、髄内ピンによる外科的な整復を選択肢しました。

橈骨近位の骨折部は比較的ズレが少なかったため、周囲の筋組織をできるだけ温存しつつ、手術によってズレが大きくならないように慎重に進める必要がありました。関節にまで骨折がおよび、構造が破綻すると整復することが非常に困難になり、生活の質を大きく損なうことになるからです。

そこで、通常は歯周病治療などの際に歯根の評価に使用される歯科用レントゲン装置を用いながら手術を行いました。

歯科用レントゲン装置は撮影範囲は狭いものの、細かな部位の描出に優れています。装置が小型のため取り回しがきき、レントゲン室まで移動することなくその場で評価が可能な点が最大の利点です。

歯科用レントゲン装置を使用した画像になります。ピンの適切な挿入位置や長さをこまめに評価しながら手術を進めることができました。

髄内ピンは一本では回転に対する抵抗性はえられません。橈骨、尺骨それぞれにピンを挿入することで回転と屈曲への抵抗性を増強しました。

包帯による外固定も併用しつつ術後約2ヶ月で外固定が外れ、約3ヶ月で治療終了としました。

ウサギなどのエキゾチックアニマルの骨は細く脆いため、慎重に作業を進めなければならず、インプラントを設置する際の骨損傷も少なくありません。歯科用レントゲン装置を使用することで、確認と修正がスムーズに行えるため麻酔時間の短縮や精度の向上につながると思われます。