ウサギ、ホーランドロップイヤー、8歳、未去勢雄、

お尻の周りに腫瘍があるとの主訴で来院されました。

爪切りの際に発見し、その時点で腫瘍は4cmほどの大きさに増大していました。

腫瘍は増大傾向を示す可能性が高く、出血も伴っていたためQOLを維持するためにも切除することになりました。

 

手術では腫瘍を出来る限り取り除いていきましたが、腫瘍は腹腔内にまで深く浸潤していました。

肛門や尿道を傷つけてしまうことを避けるために、取り除ける範囲での手術となりました。

 

術後は活動性も食欲も増して元気に過ごすことができていました。

しかし、摘出した腫瘍の病理検査の結果から "線維肉腫" であることが判明しました。

線維肉腫は局所浸潤性が高く、手術で切除しても局所再発が多い、悪性の腫瘍です。

 

このこも術後に局所再発を認め、腫瘍は急速に増大していきました。

増大した腫瘍からは出血がおこり、肛門や尿道を圧迫し始めたため次の処置としてモーズペーストをおこなうことになりました。

 

<モーズペーストとは>

モーズペーストは特殊な薬品を調合して腫瘍に塗布することで効果が発揮される治療方法です。

このモーズペーストにはタンパク質を凝固させる性質があります。

進行して増大した皮膚腫瘍に塗布することで凝固させ、凝固した部分を切除することで腫瘍を小さくします。(減容積)

さらに、腫瘍からの出血や浸出液を抑えることもできるので、悪臭も緩和でき、QOLの改善が期待できます。

 

今回、このこはモーズペーストの実施後から腫瘍の増大スピードが減少していきました。

出血や腫瘍からの臭いも軽減され過ごしやすくなりました。

尿道や肛門など皮膚刺激を避けたい部分には塗布できないのが弱点ではありますが

塗布した範囲では腫瘍が黒色化し、徐々に剥がれ落ちてきました。

腫瘍の増大に伴って歩きにくさなどの障害もでていましたが、モーズペースト後には活動性が徐々に増加してきました。

 

このモーズペーストは腫瘍の増大によっては何度も繰り返し処置を行うことが望ましく、このこも現在までに3回のモーズペーストを行いました。

腫瘍の増大に伴ってモーズペーストの難易度も上がりますが、

今回はガーゼ法を用いて立体的な腫瘍でもしっかりとモーズペーストを浸透させることができました。

モーズペーストの処置は麻酔が必要になることが多いので、頻回に行うことが難しい場合もあります。

それでもモーズペースト後は臭いや出血、痛みが緩和されるのでやはりQOL維持には効果的であると考えられます。

 

予後が悪いとされる悪性腫瘍と診断されましたが、化学療法やモーズペーストによって手術から半年以上たった現在も元気に過ごしてくれています。

根治が難しい腫瘍に対しても、このようになるべくQOLを保てるようにご選択いただける治療方法があります。

悪性腫瘍や難治性のものでも諦めずに少しでも戦える方法を一緒に探していきましょう。是非一度ご相談ください。