フェレット、6歳齢、去勢雄の症例です。

他院で腹腔内に腫瘍があると診断され、無処置で経過観察していたところ、昨日から便が出ないという主訴で来院されました。

来院時は慢性的な食欲不振や下痢便によって体重減少が認められました。

 

 

腹部を触診してみると中腹部に硬いしこりが触れられたため精査をすすめたところ、消化管に異常が見つかりました。

 

腹部超音波検査では消化管壁が構造不整に肥厚しており、消化管腫瘤が疑われました。

 

この腫瘤が原因で消化管が半閉塞状態になり、排便ができていない可能性がありました。

内科治療も試しましたが消化器症状の改善が認められなかったため、試験開腹に踏み切りました。

 

術中に消化管を確認すると、消化管壁が内部に粘液を貯め込むような状態で増大し、消化管内腔が狭窄しておりました。

腫瘤状になっている消化管を切除しました。

 

(摘出した腫瘍)

 

消化管の切除範囲が大きく、その断端部の径に差があったため、断端同士を側側吻合術という術式でつなぎ合わせました。

(これからつなぎ合わせる切断した消化管の断端部同士。径が合わない。)

 

(側面同士を合わせて縫っていきました)

 

 

術後は便も排泄できるようになり、徐々に食欲もでてきていました。

 

こちらの消化管腫瘍は病理検査の結果、悪性腫瘍であることが判明しました。

”粘液腺癌”という粘液物のムチンを大量に産生して大きくなる悪性腫瘍で、予後不良であることが想定されました。

この症例は腹腔内にいくつも腫瘍が播種していることが確認されたので、抗がん剤を用いて術後治療をおこなっていきました。

 

今回の抗がん剤治療は、注射薬と自宅での内服薬どちらも組み合わせて行いました。

抗がん剤によって腹腔内播種していた腫瘍部分が少し小さくなったことが確認され、本人も元気に動き回ることができるようになっていました。

6歳という高齢な症例でしたが、抗ガン剤治療を最後まで継続し、術後100日以上頑張ってくれました。

フェレットの消化管粘液腺癌は報告の少ない病気なので、実際の予後に関しては今後も検討の余地があります。それでも今回の場合は、外科手術と化学療法を組み合わせることで本人の一般状態を一時的に改善させることができました。

非常に珍しい病気や予後不良とされる悪性腫瘍でも、術後の化学療法で症状の緩和が見込めることがあります。

今回のように珍しい病気でも治療を諦めるのではなく、1人1人に合った治療で、少しでもサポートできればと考えております。