日本猫、15歳、去勢済みの男の子の症例です。

一年前に肺の腫瘍を切除しており、その経過観察中に口腔内の腫瘤がみつかり、組織検査により、口腔内扁平上皮癌と診断されました。

腫瘍が成長し、口腔内から奥方向である咽頭、喉頭を圧迫してきたため、嚥下や呼吸が困難になってきました。

そこで、食道と気道を確保するため、胃瘻チューブと気管瘻を設置することになりました。

気管瘻は頚部の気管を切開し、皮膚に開口させることで形成します。

 

頚部の皮膚、筋肉を剥離し、気管を露出した後、第3から6気管輪の周囲を剥離し、

気管の腹側の筋肉を気管の背側に押し込むように縫合し、気管がより皮膚によるように気管のベットを作りました。

 

その後、気管軟骨を切開、剥離し、気管粘膜のみを残しました。

 

気管粘膜を切開し、反転させ、皮膚と縫合していきました。

 

気管開口部位の全周を皮膚と縫合し、終刀しました。

 

 

術後の覚醒状態は良好で、胃瘻チューブから食餌をとれ、気管瘻からスムーズに呼吸ができるようになりました。

 

術後は気管粘膜を乾燥させないため、加湿目的でミスト吸入をする必要があり、術後の入院中だけではなく、帰宅後も継続して行ってもらいました。

猫の永久気管切開による気管瘻設置では、中央生存値20.5日と報告されていますが、ご家族さまの懸命な看護により、この子は術後50日間生存できました。

最後まで食餌を取れ、呼吸に困ることなく過ごしてくれました。

腫瘍などの難治性疾患にたいし、生活の質を維持するための緩和的治療も大切な選択肢であると考えております。