気管とは喉頭(のどぼとけのあたり)から始まり、胸の中で二本の気管支に分岐するまでの呼吸気道です。
空気の通り道であり、Cの字状の軟骨が35から45本連なり、Cの抜けている部位(背側)は膜性壁という薄い気管筋で構成されます。
内腔は気道粘膜上皮という細胞が覆っており、ここには、
空気中の異物や微生物を捉え、分泌物とともに痰といったかたちで排出したり、咳で喀出するための神経や乾燥した空気を潤すための粘液を分泌する細胞が集まっています。
気管虚脱とは、気管を構成する軟骨の脆弱化と筋肉(膜性壁)の伸長により、気管が背腹方向につぶれてしまう病気です。
原因は遺伝性、栄養性、神経性、炎症性などが考えられておりますが、はっきりしたことはわかっておりませんが、多因子性であると考えております。
犬種、環境、性格に加え、偶発的な感染や炎症などが起因します。
発症傾向は、ヨークシャーテリア、ポメラニアン、チワワ、トイプードルなどの小型犬で好発し、柴犬を代表とした、日本犬種やレトリーバーでも見られます。
性差はないという報告やオスの方が多いという報告もあります。
年齢は若齢期と中年齢期の二峰性で多く発症します。
季節は初夏が多く、興奮しやすく、よく吠えやてしまったり、散歩時にぐいぐいと引いてしまい、首輪による頚部気管の圧迫が起こりやすい子に起こりやすいです。
症状として、初期から中期であるグレード1〜3では、興奮時や飲水時のむせ、咳のみで異常呼吸や呼吸困難になることはありませんが、徐々に興奮時や運動時の喘鳴やグースハンキングというガチョウの鳴き声のような異常呼吸音がではじめ、病期が進んでいき、末期であるグレード4では呼吸困難を呈し、生命の危険に及びます。
診断は問診、身体検査、X線検査、X線透視検査に加え、他疾患の除外、確認のために血液検査、血液ガス分析、超音波検査などにより、暫定診断します。
確定診断は麻酔下気道内視鏡検査にて行います。
治療として、初期では内科治療として、体重管理や併発疾患としてよくみられる咽頭炎、気管支炎治療などによる温存治療を行います。
また病期の進行を抑える予防法としては、無駄吠えをさせない、興奮させない、首輪ではなく、胴輪(面積が広く、線でなく面で体を支えるもの)を使用し、頚部圧迫を避ける、涼しくして暑熱環境を避ける、減量により呼吸運動負荷を下げるなどが有効であると考えております。
病状が進行した、グレード4で呼吸困難がみられる場合は外科治療をご提案します。
外科治療には気管内ステント留置術と気管外プロテーゼ設置術があります。
当院では、双方のメリット、デメリットを考慮し、中長期的に症状の根治を目指すことのできる、気管外プロテーゼ療法(PLLP法)を外科治療として採用しております。
PLLPという光ファイバー用線状アクリル材を平行螺旋ループ状に形成したインプラントを気管周囲に設置し、そのインプラントと気管を縫合し、気管外から気管を引っ張り上げ、虚脱を整復する術式です。
アトム動物病院の米澤先生が考案された画期的な術式です。
米澤先生から直接ご指導いただき、私もその術式にて、呼吸に苦しむ犬を助けることができるようになりました。
PLLP
当院では、気管虚脱と診断されたという主訴で治療を希望し来院されるご家族さまや、他院さまより気管虚脱の外科治療のご依頼をいただくことが多いのですが、
診察、精査をさせていただくと、気管虚脱は二次的な病態であり、背景として他の原発疾患がみつかるといったケースが非常に多くみられます。
そういった場合、その背景疾患をしっかりと治療すると気管虚脱のようにみえていた病態はきれいに治る可能性があります。
呼吸器症状がみとめられた場合、まずはしっかりと診断を行い、適切な治療を選択することが重要です。